その笑顔は、何だか企んだようなもので……何を考えているのかと思う。

杏のことだ、いっつも俺にイジメられてるから仕返ししようとしてるんじゃねーのか?

ま……今日くらいいいか。

本人も、仮装して楽しそうだし。


『イタズラしちゃうよ?』


ボードに書かれた言葉を見て、降参したように両手を挙げて返した。


「はいはい。イタズラどーぞ」


ハハッと笑った瞬間。

イスに座っていた俺に、覆いかぶさるような形で杏が近づき……俺の右頬に柔らかいものが触れた。



へ、…………………!?

状況を理解するのに、3秒ほど時間がかかった。

杏の俺へのイタズラは……頬にキス。

キスの時間自体は短く、スッと離れていく杏。


『イタズラ終了』


ペロッと舌を出して笑いながら、口パクで告げる。

その後、杏が周囲を見渡すが、みんなお菓子のやり取りを行っており、俺らのことは見ていなかった。


そんじゃ、好都合だ。


「杏ちゃん、そんなイタズラなら大歓迎ですから」


グイッと、目の前にある杏の腰を両手で引き寄せて抱きしめる。

こんなイタズラされて、かわいい魔女姿のコイツを見れるなら、ハロウィンは最高だな。

そう思って、彼女に告げる。


「Trick or Kiss?」



それを聞いた杏は、一瞬だけ目を見開くが、フッと笑って再び俺の頬に近づいてきた。



―Trick or Treat? 完―