――杏樹side――

3月13日。5限目の休み時間。

明日は、ホワイトデーだ。

教室で、席に座っていると、女の子たちのにぎやかな声が聞こえてくる。


「明日ホワイトデーだよね~! 予定ある?」

「私、他校の彼氏とデートなんだ~」


頬がピンク色に染まるクラスの女の子。

いいな……。


「あたしもね、学校が午前中に終わるから家デートなんだよ」


きゃっきゃっと、騒ぐ彼女たちを見ていると、その近くにいた別のクラスメイトの中村さんが、あたしの方へ近づいてきた。


「杏樹ちゃんは、滝本くんからお誘いあったんでしょう?」


うぅ……。

ついに聞かれてしまった―――……。


「ううん、ないよ」


小さく笑って、首を横に振る。


「「「「え?」」」」


その瞬間、まわりにいた男の子たちがあたしを見た。

え? なに?

あたしの目の前にいる中村さんも、ポカンと口を開けている。


「え? 滝本くんからデートのお誘いとかないの?」

「あーうん。あったんだけど、あっちに用事ができてムリになったの」



『ごめん……』

本当に申し訳なさそうに言う陸の顔が、まだ頭に残っている。


急きょ、会議が入ったんだって。

滝本財閥の社長だから、仕方ないよね。

重役会議なら、サボることはできないもん。


仕方ないってわかっているんだけど、ちょっと……ツライかな……。