ちっちゃな彼女。*30センチ差のいちごな初恋*


「翔くん…」

呟くような声で、あたしは言う。

「ごめん…あたし…帰る」

“帰る”という言葉は震えて…走り出した。

この場所には居たくない。
二人を見たくない。

だって、あの光景は1年前のあたしと西藤くん。

あたしは浴衣を着て…
いちご飴を西藤くんにもらって…

同じだよ?同じなはずなのに…

どうして今年は、あたしじゃないの?

あたしは、人の波を縫うように走っていく。
背が低いことと、ヒールの低いサンダルは、思っていたより走りやすくて、夏祭りの会場から出るのは簡単だった。


「い…っ先輩っ!」

ぐいっ

「きゃっ…」

走っている途中、不意に腕を引っ張られて、その反動で倒れてしまいそうになったけど、支えられた。

「っ…ふっ……」

堪えきれず、両目から涙が零れ落ちる。

あたしはずるずると、その場に座り込む…力が出なくて。

「先輩…」

わかってる。
あたしと藤堂先輩は、立場が違うこと。

あたしは“友達”
藤堂先輩は“彼女”

1年前も今も、あたしは“友達”

それでいいって思ったはずなのに、
それで充分だと思ったはずなのに、

どうして?

近づきたいって思ってしまった。
藤堂先輩がうらやましいって…

“彼女”になりたいって。

「っく…ふぇ…っ」

止まることはないんじゃないか…って思うくらい、涙は次から次へと溢れる。