彼の直接的な武器が鎌ならば、
間接的な武器は気配を断ち続ける集中力か。
足も遅く、飛ぶことも不得手な彼には、
極限の間合いを維持することこそが唯一の勝機であるからだった。


その日も、彼はゆっくりと歩を進めていた。
複眼に映る世界は静かに揺らぎ、風が頬をなぶる。
些細な変化を見逃さない様に意識は視界に置きながら、
彼はいまだ明るいのに空気が夜の重さを纏っているのを不思議に思っていた。

直ぐに日が沈むのかもしれない。


ふと視界に動きを捉え、彼はすかさず脇を締め鎌を構えた。

静かな足運びの彼と対称的な、タカタカと板間を踏む音が聞こえた。
それは脚力に絶対の自信を持つ者故の勇壮なマーチ。
その音は確実に近付いていた。