アクアマリンの秘密

「一つ目。
イアルがいる場所まで行ったら時間を止めて。
あたしが瑠香の方を見た瞬間に。」

「…イアル様の時間まで止めるとなると、止められる時間はかなり限られてくるぞ。
せいぜい3分が限界だ。」

「充分よ。
ワガママに付き合って貰っちゃってごめんね。
あとね、もう一つお願いがあるの。」

「何だ?」

「…記憶を失ったあたしは…瑠香のことを覚えてない。」

「分かっている。」

「だからね、また…友達になってほしい。」

「友達?」

「うん。
あたしは…また一からやり直すことになっちゃうけど…。
今は忘れちゃったとしてもね、やっぱり瑠香とは友達になりたいって思うの。
だから…お願い。
あたしともう一度、友達になって。」

「もう一度、というのは語弊がある。
私と姫は『友達』ではない。
主従関係にあると言った方が適切ではないか。身分を考えても…。」

「身分なんて関係ないわ。
瑠香とあたしはあくまで対等よ。」

「…言い出したらきかない姫君だったな、氷泡星来は。」

「二つお願いしちゃったけど…二つ目は瑠香の好きにしていいからね。
あたしの勝手なお願いだから。しかも忘れるのはあたしだし。」

「…承知した。」

「じゃあ…行きましょう。
全てを終わらせに。」

「そうだな。」


あたしの半歩手前を瑠香が歩く。
あたしは一歩一歩、歩みを進めた。
進めば進むほど、記憶と別れを告げる時間が近付くということを考えながら。


『泣いちゃダメ』

そう自分に言い聞かせて。