「忘れることは…出来ないです。きっと。」

「…。」

「忘れたいなんて、本気で思えるはずがないです。
だって華央さんは、紫紀さんの一番大切な人なんですから。
華央さんを忘れるってことは…自分自身を失うことと同じです。」


俺は何も言えなかった。
星来はそのまま言葉を続ける。


「あたし…には…記憶がないから…紫紀さんみたいに大切な人が過去にいたのかどうかも分からないし、その人を亡くしたのことがあるのかどうかも分かりません。
でも…今、あたしには蒼刃や緑志、桃依、白斗さん、そして紫紀さんがいてくれて、あたしは…みんなを大切だって思ってます。
華央さんと紫紀さんの間にあった『大切』さとは少し違うかもしれないけど、それでも…大切です。
こんなこと…考えるだけでも苦しいけど…もし…みんなが死んでしまっても…
…あたしは…忘れたくないです。絶対に。」

「え?」

「みんなに出会ったことも、こうして旅をしていることも、みんながあたしを全力で守ってくれたことも…全部…。
びっくりしたこともいっぱいあったし、苦しかったこともあった。
だけど…やっぱり楽しかったことも嬉しかったこともあったから…。
あたしは忘れたくないです。たとえ、みんなが死んでしまっても。
死んでしまったことは辛いけど、それでも絆は…思い出は残るって信じたいです。

そしてこれはワガママですけど…。」

「?」

「もし、あたしが死んでしまっても、あたしは紫紀さんに…あたしのことを覚えていてもらいたいです。
大切な人に忘れられた時に、その人は本当の死を迎えるって…あたしは思います。」