「大切なものって当たり前になるから、これからは平凡しかないよ?あたしが永遠の幸せの時間をあげるね」


彼女はそう言い、口角をグイッと上げ、ポケットに手を入れた。


彼女が言っている意味がよく分からなかったが、何か取り出そうとしているのは分かったので、プレゼントか何か期待して胸を踊らせた。


「一体、何をくれるん――…」



差し伸べた手のひらに降ってきたのは赤い雫。


気持ち悪い暖かさ。


――ピィーッ!


電車のドアが閉まった。


彼女は目の前の乗り物に乗っていない。


進み出す電車。


目の前に広がる血と、倒れる彼女。


彼女の右手にはカッターナイフ、左手には腕には深い切り傷――…。



怖くて動けなかった。


応急処置をしようと思ったけど体が固まって、頭が混乱していたから、ただ倒れた彼女を見つめていた。


周りの人が救急車を呼び、彼女は病院に連れていかれたが出血を止めることが出来ず亡くなったらしい。


病院にも葬式にも行ってないから僕には分からない。