あたしの背中に手を回しながら言う藍川。
……きっと、あたしの気持ちになんか気付いてるくせに。
「本気で嫌がるなんてできないって、分かって言ってるでしょ」
「そうであって欲しいとは思ってる。……だから、今、くるみの気持ちが聞けてよかった」
完全にやぶへびだった自分の発言に悔しくなりながらも、藍川の胸に顔をつける。
だけど、ゆっくりと身体を離されて……不思議になって藍川を見上げた。
あたしの腰あたりに手を回したままの藍川の視線は、まっすぐ前を向いていた。
あたしもその視線の先を追おうとして……、でもその瞬間、強い風が吹いて目を瞑る。
ザ、と一瞬吹いた風。
そっと目を開けて前を見ると……、さっきまでは誰もいなかったハズなのに、一人の男の人が立っていた。
スーツ姿の男の人は、50代くらいに見えるけど……なんだか背筋がぞくぞくするような雰囲気だった。
それは整った容姿だとか、高い身長がそうさせるのかもしれないけど、胸がざわつく。
見つめる先で、男の人がすっと片膝をついて藍川に頭を下げる。



