恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―



「……でも、ないよ。咬み痕」


あたしが言った言葉の意味が分かったのか、藍川はふっと笑う。


「人間の治癒能力は、くるみが思ってるよりもすごいって事だろ。

俺が咬んでも、切り傷と同じだ。治るまでに一週間もかからない」

「……『咬んでない』、とは言わないんだね」


藍川を見ながら言うと、藍川は困り顔で微笑む。

……ちょっと意地悪な試し方をしちゃったかと思いながら、鏡をポケットにしまった。


そして、藍川にゆっくりと近づいて、目の前に立つ。

机に浅く腰掛けている藍川と、立っているあたしの目線はちょうど同じくらい。


「くるみ? どうした?」


あたしの異変に気付いたのか、藍川が聞く。