四階建てのアパートの一室。 1LDKの広い部屋に彼は一人で住んでいた。 玄関前に立ち、インターホンを押す。 返事はない。分かりきっていた。 彼は極度の人嫌いであり、訪問者に対しては必ず居留守を使う。 私はと言えば、彼の部屋の鍵を持っているためにすんなりと中に入れた。 インターホンを押したのは入りますよーという合図。 「神楽(かぐら)、いる?」 玄関で靴を脱ぐ。 春になりたての今、最近は寒さもなくなってきたのに――この部屋はいつも寒くて薄暗い。 昼間でもカーテンをしているからだろう。