長年の夢だったライブハウスを、この春にオープン出来たからだ。

 カウンターは、マホガニィとはいかなかったけど、オークの一枚物を奮発した。

 ステージは、ドラムセットを置くと猫の額程の狭さになってしまうが、一応それらしく作った。

 中古のスタンウェイを置き、バックバーにはヘブンヒルの15年を、棚にはマーサから貰ったレコードと、僕が買い足したレコードが納まっている。

 キッチンで料理を作ってくれているのは、残念ながらレナではないが、結婚して十五年、僕の夢に嫌な顔一つせず付き合ってくれた妻が、片時も笑顔を忘れずに居てくれる。

 時々気が向くと、あのサックスを取り出して吹いたりするのだが、どうも自分には音楽の才能が無いようだ。

 教えてくれた教師は一流なのにねと、よく妻にからかわれる。

 もし、僕の店に来てくれるのなら、

『マーサ&サッド・マン・スリー』

 は何処ですか?と尋ねて下さい。

 扉を開けたら、金色の毛足を持った大きい犬に出迎えられるけど、決して怖がらないで欲しい。

 人懐こい眼差しをした彼を名前で呼んで上げたら、きっと長い尾を力一杯振ってくれるはず。

 名前は……

 そう、マックスと呼んで下さい……。



    おわり