サッド・マン・スリーがなくなり、僕の手元に残ったのはT・Jのサックスと、二千枚のレコードとなった。

 ちょっと格好付けた言い方をすれば、何物にも変え難い想い出も……

 なんて言ってもいいかも知れないが、僕にはそんなセリフは似合いそうもない。

 レナとはその後も前程ではないにしても、互いに時間が合えば会ってはいたが、それも年が明けるとパッタリとなった。

 アメリカに渡る準備の為に、横浜の実家へ帰って行ったからだ。

 ニューヨークからレナのエアメールが届いたのは、僕が二十三回目の誕生日を迎える前日だった。

 彼女は、僕達に別れの言葉も言わず、一人でニューヨークへ飛んで行った。

 リュウヤさんは、

「いくらなんでも冷たてえ女だなぁ……」

 と言ったが、

「何となく私はレナちゃんの気持ちが判るような気がする……」

 とリサが呟いた。

 僕は、彼女からのエアメールを読みながら、守れなかった約束の事ばかりを考えていた。

 そして、やっと吹けるようになった一曲を、誰もいない真夜中の公園で、一人演奏した。

 その曲は、あの日、T・Jが一番最後に歌っていた曲だった……。