天国の丘


『サッド・マン・スリー』に戻った時には、既に西の空が夕暮れ色に染まっていた。

 マーサは、遺骨の入った白木の箱をピアノの上に置き、暫くじっと動かないまま立っていた。

 リュウヤさんが、そっと僕達に耳打ちするようにして、

「二人だけにして上げよう……」

 と言った。

 皆、頷き合って店を出ようとすると、マーサが振り返って言葉を掛けて来た。

「ねえ……今夜、ライヴをやらない?
 T・Jは大勢でワイワイやるのが昔から好きだったからさ……」

 するとリュウヤさんが、

「ヨッシャ!やろうやろう。俺も湿っぽいのは苦手なんだ。どうせなら、T・Jにゆかりのある連中を皆集めようぜ」

 と言った。

「喪服無し、涙無し、天国へT・Jを送る送別会ていうやつね」

 レナが言う。

「私、飛びっ切りセクシィなドレスを着て来る」

 リサが言う。

「いいね、いいね、お前の色気にT・Jも天国への階段を回れ右して来るぜ」

「でも今から連絡をして間に合いますか?」

「間に合うさ。間に合わさせるさ。じゃなきゃ、皆、ゴー・トゥ・ヘル!」

「皆、ありがとう……さあて、それじゃ、アタシは早速料理の準備をしなくちゃ。
 ボウヤ、そんなとこでボーとしてないで、とっとと支度して」

 久々にマーサの元気な声を聞いた。