天国の丘


 T・Jの司法解剖が終わり、遺体を引き取る事が出来たのは、翌日の昼過ぎになってからだった。

 すっかり憔悴しきったマーサを抱き抱えるように、僕とリュウヤさんが後ろから支えた。

 レナもバイトを休んで駆け付けて来た。

 リサはずっと泣きじゃくっている。

 霊柩車は、T・Jの遺体とマーサを乗せ、火葬場へ向かった。

 焼却炉に入れられる前の、最後の別れをする為に、柩の蓋を開けた。

 上手い具合に傷口を縫合してあるのか、綺麗な顔をしていた。

 髭も剃られ、さっぱりとしている。

 長かった髪の毛も、多少切ったのか、僕の知っているT・Jとは別人みたいな感じに思えた。

 髭が無くなり、肌のたるみやシワが露わになって、何だか本当の年齢より老けて見えた。

 皆、ハンカチを目頭に当て、最後の別れを惜しんでいる。

 係りの者が、

「それでは……」

 と言うと、蓋は閉められ、焼却炉へと柩が送り込まれた。

 お骨になる迄の間、僕達は誰一人喋る事無く待合室で過ごした。

 残酷な程に長い時間を、マーサはどんな思いで堪えていたのだろうか。

 途中、リュウヤさんが気を利かして、売店からジュースとかを買って来て、皆に配ったりしてたが、ありがとうの言葉すら飲み込んでしまう程、声を失っていた。

 焼き上がったお骨を骨壷に入れる時が一苦労だった。

 二人一組になって、長い箸で骨を摘もうとすると、摘んだ端から骨が崩れた。

 そっと力を入れずにやろうとするのだが、どうしても砕けてしまう。

 二度、三度と繰り返しながら、それでも何とか骨を壷に入れ終えた。

「こんなになってまで、アタシ達の手を煩わせるんだから……」

 それは、その日初めて聞いたマーサの言葉だった。