記事自体は、それ程大きくなく、興味が無ければ見落としてしまいそうな大きさだ。
僕の心は、見出しを目にした時点で、既に何かを察し、動揺していた。
中味を読むのが怖かった。
そんな気持ちとは裏腹に、目は食い入るようにして記事を追っていた。
『昨夜0時20分頃、東京都立川市内の路上で血を流して倒れている男性を警邏中の警察官が発見し、直ちに最寄りの救急病院へ搬送したが、間も無く死亡。
身元を確認した所、神野タカシさん(55)と判明。
死因は、脳内出血及び内臓破裂によるものと思われるが、神野さんが倒れていた付近で乱闘騒ぎがあったとの目撃情報があり、警察では神野さんが何らかの事件に巻き込まれて暴行を受けたのではないかとの見方をしている。
尚、神野さんは、元人気ミュージシャンで、戦後のジャズ界の第一人者とも言われていた。
ここ二十年程は、音楽活動は殆どしておらず、音楽関係者の間では、事実上引退していたと思われていた。』
記事を読み終えた僕は、マーサの頬に残っていた涙の意味を知る事が出来た……。



