″上を向いて 歩こうよ 涙が こぼれないように……″
原曲よりもゆっくりと、一言一言噛み締めるようにして歌い、坂本九のオリジナルとは、又違ったバラードになっていた。
最後のフレーズの
″一人ぼっちの夜″
を二度繰り返し、彼の
『上を向いて歩こう』
は終わった。
暫く誰一人として声を上げず、静けさが辺りを覆った。
「……ありがとう」
T・Jがそう言って頭を下げた瞬間、これ迄以上の拍手と歓声が湧き起こった。
自然と涙が流れて来た。
誰もが、このまま時間が止まってくれたらと思っていた。
名残を惜しむように、僕達を囲んでいた輪がゆっくりと崩れ、それぞれの場所へと戻って行った。
最後のビールをT・Jに渡し、僕達は別れた。
僕は、彼を自分のアパートへ連れて行きたいと思ったが、T・Jは、
「遠慮しとくよ」
と言って自分の寝倉へと帰った。



