レナは何の話しだかまるっきり判らず、訝し気な視線を寄越した。

「T・J……」

「ティージェー?」

 ジャケットにクレジットされてるプレイヤーの名前を見た。

 江木トオル、新堂エイジ、という名前と共に、神野タカシという名が在った。

「サックスとピアノ、それにギターも、何を遣らせても一流のプレイヤーだったわ。
 それも、超が付くね。それだけじゃなく、ボーカリストとしても。
 T・Jというニックネームは米軍のキャンプ回りをしてる時に米兵達から付けられた呼び名なの」

「あの人がこのT・Jという人なら、どうしてあんな……」

 と、その後の言葉を僕は飲み込んだ。

 言いかけた言葉の意味を判ったのか、

「ジャズの世界では超一流と言われても、歌謡曲全盛の当時では、それで飯が食っていけるわけじゃなかったからね。
 いくら進駐軍相手の演奏で人気が出ても、回って来る仕事は余りたいした事がなくて、それで気持ちが荒んじまったのか、酒とヒロポンに走っちゃって……。
 ヒロポンて判るかい?」

「いや……」

「今でいう覚醒剤の事よね?」

 レナが答える。

「そう、アル中のポン中…身も心もボロボロになって、音楽の世界から消えて行ったの……」