「バンドの名前だったんだ」

「ジャズの世界では、異なる三人のプレイヤーが集まるとトリオと言ってね、このレコードは三人が揃った最後のアルバムなの」

 僕は、裏面の写真とそこに書かれている曲目のクレジットをずっと見つめていた。

「ねえ、何曲かヴォーカル三浦政子て名前が在るけど、これってマーサの事?」

 無言で彼女が頷くと、レナが

「マーサの歌、聴きたいな。ねえ、このレコード掛けてよ」

 と言った。

 マーサは、ジャケットから大事そうにレコード盤を取り出し、プレイヤーに乗せ、針を落とした。

 少しばかりノイズが入っていたり、レコード盤の細かい傷とかで、クリアな音ではなかったけど、寧ろ何だかホッとするような温もりを感じた。

 暫くして、僕はジャケットの一人に目が止まった。

 サックスを吹いている姿で写真の中に収まっているその男の横顔と、あの日の朝、瞳を閉じて『ホワイト・クリスマス』をハミングしていた男の顔とが、少しずつ重なり合って来た。

 僕は、思わずジャケットの写真を指差し、

「彼なんだね?」

 と、マーサに尋ねた。