彼女が何か話す度に、僕の心はときめいた。

 時々笑いながら肩や腕に触って来るのだが、その時はもう天国にでも昇ってしまったような気分だった。

 かなり長い時間、『サッド・マン・スリー』でイヴの夜を楽しんだけど、よくよく思い返すと、レナとは余り直接言葉を交わしてない事に気付いた。

 別れ間際迄もっぱら喋っていたのはリュウヤさんだし、僕はどちらかと言うと、みんなの話しの聞き役に回っていたからだ。

 本当は、彼女ともっといろんな事を話したかったんだけれど、何をどう話していいのか判らなかったから、結局は聞き役に徹していた。

 それに、何かに夢中になって喋っている彼女も、すごく可愛いらしくって魅力的だったから、眺めてるだけでも幸せな気分になれたんだ。

 いずれにしても、この日の夜は、何十年経った現在も、色褪せる事のない想い出となった。