チュッ、と、可愛い音が響いた。
「え…智樹…?」
私が見上げると智樹は眉をハの字に曲げて笑い、顎で外を指した。
…康平が、いた。
驚いたような康平の顔が、徐々に顰められていく。
眉間には深く皺が刻まれ、目も鋭く怒っているようだった。
私達の両手は恋人のように絡められ、私の顔の横で壁に押し付けられている。
『綺袮、何してる…?』
聞いたこともないような、低い声。
いつもの落ち着く声じゃなくて、低い、低い、悲しい声。
喉に詰まって上手く声が出ない。
別れ話、しなきゃなのに。
声の代わりにポロポロと涙が零れる。
智樹がまたそれを一粒一粒拭いながら口を開いた。
「彼氏さん。
綺袮、貰っていい?」
ぼやける視界の中で、康平がカッと目を見開き私達に近づいてきた。
そして、ゴッという低い音と共に私の前にいた智樹の姿が消えた。
「っ!!
智樹っ…キャッ!」
ぐいっと腕を引かれてつかつかと校舎の隙間から出される。
キツく、キツく腕を捕まれる。
私には彼氏の心中、わかんない…