サクラ


 三月最終金曜日。

 やっぱり特別な思いが湧いて来た。

 見慣れたスタッフともお別れ。とは言っても同じ職場だから、何処かで顔は合わすだろう。

 最後の構成を考えていた千晶の所に、大越がやって来た。

「ちぃ……」

「あら、お別れのお涙頂戴ならまだ早いわよ…どうしたの?」

 無言で立ち尽くす大越の手には、一枚のニュース原稿があった。

「これ、この後の番組に差し込むニュースだ」

 何かを察した千晶は、引ったくるようにしてその原稿を取った。

『一昨日、全国三ヶ所の拘置所で死刑の執行が行われた。執行された死刑囚は北海道で一名、東京で二名、名古屋で一名の計四名で、昨年11月から僅か四ヶ月という短い間に執行が行われたのは、異例の事である。
 なお、法務省からの発表による執行された死刑囚の氏名は……』

 その名前はあった。

 少し震える手で、千晶は原稿を返した。

 受け取った大越は、替わりに一通の封書を差し出した。

 差出人の名前を見なくとも判っている。封も切らず、机の中にしまった。

「いつかは…ね。いつかはこういう日が……」

「どう言って上げたらいい?」

「なあんにも……。さて、ダイさん何ボォーっとしてんの。そろそろ時間でしょ」

「千晶……」

「何?」

「一人でしょい込み過ぎんな。二人なら、多少は軽くなるぞ……」

「…バカ、口説くんならもうちょっとロマンチックな場所でしてよ」

 千晶の言葉が言い終わらないうちに、大越は背中を向けスタジオに向かっていた。