サクラ


 幾つかの廊下を歩き、幾つかの階段を降り、その場所へと歩みを進めた。

 傍らの年配の職員が、

「梶谷、家族とかに何か伝える事があるなら、聞いておくぞ」

「私物篭に、まだ投函していない手紙があります。それを出しておいて頂けませんか」

「判った」

「ありがとうございます」

 初めて歩く廊下の先に、観音開きの扉があった。

 中に入ると、一ヶ月前に面会した教悔師が居た。

 その横には初めて見る職員。

 教悔師が話し始めたが、私の耳には殆ど入って来ない。

 私には、何度となく耳にした彼女の言葉だけが掛け巡っていた。

 教悔師の話が終わり、入って来た扉の反対側の扉が開いた。

 促されて歩き出す私。

 不思議な感覚だ。

 もう少し取り乱すかと思っていたが、自分でも驚く程に落ち着いている。

 四角い正方形の小さな部屋。

 リノリュームの床の中央部分だけが、同じ色の板になっている。

 その部分に立たされ、濃い灰色のツナギのような服を着せられた。

 手錠を掛けられ、準備が出来ると、

「済まんな、規則なんだ」

 と、申し訳なさそうに若い刑務官が言う。

 すうっと頭から袋のような物を被せられた。

 何も見えない。

 少し息苦しい感じがする。

 首に何かが巻かれた。

 太いロープだ。


 達夫、多恵子、そして千晶さん…ありがとう。


 床が、失くなった……