「千晶のカラーを出せばいいよ」

 の一言が、彼女の気持ちを軽くした。

 番組は平日の夕方6時から7時迄。

 FM局らしく、メインは新旧のヒット曲が盛り沢山とイメージしていた局の番組編成関係者達は、実際に放送が始まると、予想が外れた事に幾分驚いた。

 時間帯からすれば、若い旬のアーティストをゲストに呼んだり、そういった曲を多く流した方が、ユーザー受けはする。

「大丈夫かい?」

 ディレクターの元に心配顔で編成部員達が言って来た。

 結果は、五年も続いて、もうすぐ六年目に突入する。

 千晶のスタイルは、ただコメントをして、曲を流すといったものではなく、その時々で構成を変えて来る。

 曲を一曲だけセレクトし、その曲にまつわる背景や、自らの思い入れを語る……

 それが曲ではなくアーティストの場合もある。

 最初の頃は、リスナーの反応もそれ程ではなかったが、二年目の終わり位から寄せられる葉書や手紙に変化が表れ出した。

 深夜のリスナーを対象にしたような『ちあきのお耳にひと時』は、今ではAM局も含めた聴取率のトップを走っている。

 反響が広がるにつれ、千晶の番組に対するこだわりがより強くなって来た。最近では、千晶のその姿勢を快く思わない者も現れ始めている。

 彼女は一貫して、音楽を通じてその時々の様々な思いを生の声で伝えようとした。台本や番組進行表を無視する事など、日常茶飯事だ。それでも彼女の理解者であるディレクターは、それまでと同様好きにさせていた。

 時に、リスナーからの手紙や葉書に、彼女は必要以上に接してしまう部分があった。

『ちあきのお耳にひと時』のリスナーの年代層は、二十代前半から三十代後半の女性が多かったから、寄せられる手紙の内容の殆どが、恋愛にまつわる話が多い。たまに、ヘビィな人生相談的な内容のものが来たりすると、手紙や葉書を仕分けするADが、除けてしまったりする。

 番組には重過ぎると判断しての事なのだが、千晶は何度かそういった手紙や葉書を取り上げた事があった。