その日の放送も終わり、帰り支度をしていた千晶の所へ大越が缶珈琲を差し出して来た。

「お疲れさん……」

「缶珈琲が昼間の慰謝料か……」

「なんせ年中懐が寂しい安月給取りなもんで」

「今日の事は、わたしの方が慰謝料を払う方かも…ねえ、飲みに行かない?奢るから」

「ちぃ、熱出たか?」

「せっかく本心から言って上げてるのに」

「夢じゃないよな?」

「ダイさんの夢は、キレイ系のおねえちゃん達に囲まれて過ごす事でしょ。わたしみたいな行き遅れのアラフォーと飲む位、夢に入らないわよ」

「ヨッシャァー!」

「言っとくけど、間違ってもおねえちゃんはいませんからね」

 二人で冗談に花を咲かせながら、千晶は、ふと、大越と何年も仕事をしているが、二人だけで飲みに行くのは初めてだなと思った。

 妙な感じ……

 意味もなく一人でその事を考えていたら、

「何を一人で笑ってんだよ」

「何でもない」

 表に出ると、冷たい空気が鼻の中でキィーンとした。

「寒い」

「北海道じゃ初雪だとさ」

 そう言って大越は、自分のマフラーを千晶にそっと掛けた。