所属事務所は業界大手で、これまでも数多くの人気アーティストを送り出して来た。

 最近は、アーティスト性の強い歌手やグループだけでなく、Maiのようなアイドル系までプロデュースするようになった。

 事務所の影響力はかなり強く、メディア全体が顔色を窺う程である。

 番組プロデューサーが飛ばされたりとかはザラで、下手すると番組一つ潰す事も可能な程だ。

 様々なクライアントが絡み、ラジオとは比べ物にならない制作費が動くTVの場合は、尚更この事務所には気を使うが、その点、ラジオのFM局は割と大丈夫だった。

 ユーザーの違いもあるが、影響力という点で軽く見られていた部分もある。

 Maiは、アイドルとしてデビューしたが、今年からコンビを組んだプロデューサーの音楽性もあり、アーティスト性を打ち出す戦略に変わった。

 確かにアイドルとしてはそこそこ歌は上手い方だし、売上も出すシングルは必ず一位になる。アルバムチャートもトップだ。だが、千晶からすれば、どんなにアーティスト路線を歩もうが、所詮はアイドルとしてしか認識出来ない。個人的好き嫌いで言えば、決して嫌いではなく、寧ろ悪くないとさえ思っているが、自分の番組で取り上げるには、色が違い過ぎる。

 その事を言った。

「俺だってそんな事位判ってんだよ!」

 珍しく大越が千晶を怒鳴った。

「あのな、俺達は所詮会社に使われる身なんだ。三度三度おまんま食えてんのは、会社から出てる給料のお陰なんだよ。その会社だってな、俺達に給料払い続けるには、それなりにいろいろあんだよ!」

一気にまくし立てた大越は、他のデスクの椅子を蹴り飛ばしながら出て行った。