私が逮捕されて暫くしてから面会に来た弟は、私以上に憔悴し切った表情を見せ、

「何で、何で兄さんは……」

 と、一言だけ言って泣き続けていた。

 仕事を失い、家族にも見放されていた私の唯一の救い主だった弟も、当時は出張や単身赴任が多く、なかなか直接連絡を取る事が出来なかった。

「俺がいなくても、困ったことがあったら女房にいつでも言ってくれればいいよ」

 弟はそう言ってはくれていたが、実際に金の無心に行っても、弟の嫁に体よく断られる事が殆どだった。

 弟からは、その事を心の底から悔やんでいるような節が窺える。


 あの時、ちゃんと救いの手を差し延べていたら、もっと真剣に兄さんの事を……


 何度か手紙にそういう言葉が書かれてあった。


 お前のせいな訳ないじゃないか……


 そう返事に認めながらも、本心からそう思えるようになったのは、最近になってからの事だ。

 夕方、弟が差し入れしてくれた秋物の衣類が届いた。

 ラジオから古い曲が何曲も流れていた。英語だかフランス語だか判らない歌詞だったが、歌手の名前だけは知っていた。

 薄手のクリーム色のセーターを手にしながら、


 そういえば、あいつ、エディット・ピアフのレコードを持っていたよな……


 と、曲を聴きながら思い出していた。