「梶谷、面会だ」

 毎月一回、達夫は律儀に私の所へ顔を見せに来てくれる。

 以前は十分にも満たない面会時間の短さに慣れず、お互い肝心な用件を伝えず終いという事が多々あった。

 今ではさすがに慣れたものだ。

 面会室に入ると、透明のアクリル板で仕切られた先に、弟は座っていた。

 軽く互いに笑みを交わし、早速用件を話し出す。

「少し時期が早いかと思ったけど、秋物の服を持って来た」

「ああ、いつも済まん。帰る時、売店で便箋と封筒を買ってくれないか。出来れば、便箋は三冊位あると助かる」

「判った。洗濯物と夏物は宅下げに出してある?」

「ああ、そろそろ来る頃だと思っていたから、窓口で受け取れるように手続きしておいた」

 この程度の事務的な会話だけで、面会時間は殆ど失くなってしまう。

 立ち会いの刑務官に、まだ大丈夫か?と確認した。

「少し、老けたか?」

「兄さん、先月も同じ事聞いたよ……」

「そうか?そうだったかな……」

 いざ普通に喋ろうとしても、なかなか言葉が出て来ない。

 話す事が無いからではなく、余りにも有り過ぎるからなのだ。

「そろそろ時間だ」

 面会時間の終わりを告げる刑務官の声。

 結局、今日も何も話せなかった。