千晶は梶谷からの二度目の手紙を何度も読み返していた。

 そこには、彼女が想像していた殺人鬼のイメージは一欠けらも見当たらない。

 初めて手紙が届いた時に、インターネットで彼の起こした事件を調べた。

 事件のあらましだけを伝える記述は、梶谷を一涙の情けも持たない殺人鬼と思わせる。

 千晶には、どうしてもそれが信じられなかった。

 しかし、事実として彼は裁かれ、自らの死を持って償いの日を待つ人間なのである。

 手紙には、己が犯した罪を書いてある。

 そこには、自分が犯した罪に対して、一片の言い訳も書かれて無い。徒に虚飾の言葉で自らの罪をぼかす事なく、寧ろ淡々と語っている。


 私は、この人にどんな言葉を返して上げればいいの?


 それは、真に正直な千晶の気持ちであった。

 最初、千晶は直ぐに返事を書こうとした。

 だが言葉が出て来ない。

 世に、多くの罪人が居る。

 取るに足らない罪を犯した者であっても、同情のかけらすら湧かない場合もあれば、他人の生命を奪ってしまった者であっても、理解出来る感情が生まれる場合もある。

 だが、それらとは違う己にも説明の付かないものが、今、千晶の心の中で少しずつ広がり始めていた。


 何度も梶谷の字を追って行く。

 彼の文字を追う毎に、千晶は応える言葉を失って行った。