不思議な感情が私を支配した。


 よかった……


 警察官の職務質問の間中、私は生きている人間に話し掛けられているという事で、安らぎを感じていたのだ。

 血だらけの私を見た警察官がただならぬと思うのは至極当然の事で、しかも身なりとは不相応な現金がポケットから出てくれば、何かとんでもない事を仕出かして来たなと素人でも気付く。

 問い詰められた私は、その場で事のあらましを話していた。

 慌ただしい夜だった。

 私の一生の中で、その一日、いや、数時間の間だけ、何か違う世界を彷徨っていたかのようなひと時……

 だが、その僅か数時間の間に引き起こした出来事は、他のどの歳月よりも、私の中で埋め尽くす事の出来ない大きなものとなってしまった。