サクラ


『こんばんは、麻宮千晶のお耳にひと時、今夜も素敵なお時間を過ごして頂けたら、嬉しいな……』


 ゆったりとしたBGMを、まるで自分の声の伴奏のように話す彼女。

 私の頭の中で、まだ見ぬ彼女の姿がはっきりと浮かび上がる。

 ラジオから聴こえて来る声に包まれ、私はこのひと時だけ、別世界に居る。


『今夜は、初めに一通のお便りをご紹介しますね。お名前は、イニシャルでお呼びします。東京のK・Kさんから頂いたお便りです。

拝啓。初めてお便り差し上げます……』


 いつものように、番組のファンからの手紙を読む彼女。

 私は瞼を閉じ、その滲み通る声音に心を浮遊させていた。

 彼女の読み上げる声が少しずつ、私の意識を覚醒させ始めた。


 こ、これは!?

 
 読み上げる文面に記憶があった。

 K・K……

 梶谷耕三?……

 彼女が読んでいた手紙は、私のものだった。