章吾と瑞穂はすぐにお茶の間へ戻ってきた。

 鈴音と話しは出来なかったのだろうか。


「鈴音ちゃん、取り乱してしまいましたか?」


「いや、泣き疲れたんだろうな。頬に涙の跡付けて、ぐっすり寝ていたよ。食べ物は枕元に置いてきたけれど」


 仕方ない。起きた時に改めて話しを訊くしかなさそうだな。

 陸は章吾から瑞穂に視線を合わせると、次に瑞穂が云った。


「正信はまだ熱があるようね。苦しそうな顔をして寝ていたわ」


「そうですか、瑞穂さん達は風邪、大丈夫ですか?」


「ええ。私は大丈夫だけれど、章吾は?」


 すると、章吾は黒縁眼鏡の真ん中を指で押し上げながら答えた。


「俺も大丈夫だ。石川さんや春樹は? あれ、何か部屋が煙いな」


 丁度、陸と春樹はタバコを吸い終わり、お茶の間の隅にあった空き缶に吸い殻を捨てたところだったので、部屋が霧のように白くなっていた。