ひかるの部屋のドアを押しあけて入ってきたのは黒いフォーマルスーツ姿に白髪の老婆でした。



「玄関で声をかけようと思ったら、ブツブツ声がきこえたものだから・・・入ってきちゃったわ。
なんだかお取り込みのとこに来ちゃったみたいだわね。」



「おばあ・・・いえ、琴美さん。気がつかなくて、申し訳ありません。」


「あら、なんて顔しているの?
今の千裕くんの顔は初めて私と顔を合わせた時と同じ顔をしているわね。
悲しいことがあったのね。」



「琴美さんには隠し事はできませんね。
ついさっき、人生最大のピンチな気分になりました。
せっかくお越しくださって早々なんですが、リビングで少し僕の話をきいていただいてもよろしいでしょうか。」



「ええ、お安い御用よ。うふふ・・・」



「!?な、何か・・・」



「いろんな会社を任されているほど優秀な千裕くんだから、ここへ来たらどんな難しいことを自慢げにきかされるかと思ったけど、私の大好きな恋バナがきけそうなんですもの。
ワクワクするわっ。ほほほ。おばあちゃまとして千裕くんの恋愛を応援しなきゃね。」



((おぃ・・・何期待してんだよ。クソババア・・・。))



琴美さんと呼ばれるこの老婆は千裕たち兄弟の父方の母親で三崎本家筋のじつの娘なのです。
結婚は婿養子をとって家を発展させてきた頭脳明晰な女性で、千裕を三崎の家に引き取るようになったのも、琴美の働きかけによるものが大きかったと言われているのです。



リビングでひかるがこの屋敷にやってきた経緯から今までのことを、千裕は琴美にすべて話しました。