千裕は自室にもどるフリをして、裏非常出口から裕樹の家へと移動しました。
幸恵が先に走って玄関をあけ、地下室へ下りました。


「おぅ、色男は大変だな。・・・用件はひかるちゃんのメモと幸恵の話でほぼわかってるつもりだけど、会社関係はなんとかなっても、屋敷の元凶はどうするつもりなんだ?
しかも、ひかるちゃんは連れ去られたままなんだろ。」


地下室には小さな応接セットがあり、裕樹は先にソファーに座っていました。
千裕が裕樹の向かい側のソファーに座りながら、口調も重く。


「ああ。たぶん行き先は裕文のところだと思うんだけど・・・」


「心配だな・・・。あいつはマザコンなとこ以外はおまえとよく似ているとこがあるからな。・・・あ、すまん。」



すると幸恵が思いついたように、声をあげました。


「私は裕文さんって面識がないわ。
連れ戻すのが無理でも、どうしているのか探るくらいはできないかしら。」



「けどなぁ・・・三崎のセキュリティをなめてかかっちゃダメだ。
裕文が幸恵を知らなくても、部下の誰かが調べていれば、つかまるか、あるいは・・・」


「殺されるかもしれないのぉ?」



「まさか・・・。でも、俺が結婚するまではひかると同じく、軟禁されるかもしれないですね。
少し、希望があるとすれば・・・あの湯浅かおりと名乗る女性の情報がつかめないってところじゃないかと思う。

三崎と同等、もしくは中小企業でも令嬢であれば、俺の情報網にかからないわけがない。
でも、ぜんぜんヒットしない。
まるでそんな人物がいないかのように・・・。
偽名ではなさそうだというのに。」



「どうして偽名じゃないってわかるの?」


「一緒にやってきた召使いの様子を見ていたんだが、多忙でゴタゴタしている最中でも、名前を一度も間違えたり、口ごもったりしなかった。
おそらく、名前は本物だと思う。」


「へぇ。そういってると、おまえは名探偵みたいだな。」


「兄さん、冗談じゃなくて・・・」


「わかった・・・。わかったから、時間はまだ少しあるんだから、いい方法がないか考えよう。
社員の保護は引き受けるよ。
だから、おまえもいい案出せよ。」



「ああ。」