明るく笑ってくれた坂口先生に胸を撫で下ろしながら、あたしはようやくミートソースのかかったパスタを口に運んだ。
持ってきたままうっかりかけ忘れていた粉チーズを、途中先生に指摘されながらも、なるべく平常心を保つように努めた。
坂口先生は本当に明るい人で、常時先生に話し掛けてて、先生はそれを少し迷惑そうにしながらも、たまに笑みを零した。
施設の傍にアパートを借りた坂口先生は、そこに一人暮らししてるらしい。
この辺よりも少しだけ家賃も安いからって言ってたけど、ホームシックが怖いだけだろって先生にからかわれてた。
「そういえば、秋穂がハル兄に会いたがってたよ。
こないだ来た時、なんかケンカみたいな感じになってそのまま別れたからスッキリしないって」
途中、坂口先生が出した名前にも、先生は表情を変えなかった。
あたしも、変に反応しないようにパスタを食べながらテレビに視線を固定した。
だけど。
坂口先生の、低くも高くもない通りのいい声は、テレビの音なんかよりもあたしの耳に届きやすかった。
「秋穂があんなに一途に想ってんだから、応えてやればいいのに……。
大体、秋穂ならハル兄とも価値観も生活も合って……」
「瞬」
「なに?」



