それしか言えなかったのは、ショックだったから。
あたしと先生がここから出たら、
この寮であった事全部が、思い出の中に消えちゃうような気がして、悲しかった。
先生が隣に住んでた事も。
このボロボロの寮で、2人でいる事が当たり前だった事も。
全部がなくなっちゃうみたいに感じて、悲しかった。
きゅっと唇を結んで手を握り締めようとして……、手の中にある鍵に気付く。
じゃあ、この鍵ってなんの……?
「それ、新しく借りた俺の部屋の鍵」
「先生の部屋の……?」
「市川の実家とも、市川が行く大学とも離れてない場所だから。
ちょうどその中間点ぐらいの場所にした」
「……あたしが寄れるように?」
半信半疑で聞くと、先生はにこっと笑って頷く。
「1LDKだけど、結構広めだし、ふたりで暮らしても問題ないくらいの広さだから」
「どういう意味?」



