甘い魔法②―先生とあたしの恋―



「ああ。分かってるけど?」

「あたしは先生のモノになるし、先生だってあたしのモノになるんだから」

「……分かってるけど」

「先生の不安だって……、あたしのモノになるんだから」


そこまで聞いて、初めて市川の言いたい事が分かった。

伝えようとしている事が、分かった。


ゆっくりと顔を上げた市川と、視線がぶつかる。

頬を伝う涙が、蛍光灯の光でキラキラと光って見えた。


「こんな紙切れ一枚だけど、すごい効果があるんだからっ。

もう、他人じゃなくなるんだから……先生は、あたしを信じなくちゃダメなんだよ……っ」

「市川……」


驚きが隠せなかった。

この婚姻届に、まさかそんな想いを込めていたとは思わなかったから。


でも、今までの市川の緊張も不安も、俺のためだったんだと思うと……、

どうしょうもないほどの気持ちが込み上げる。


俺のために、こんな―――……、


「あたしを束縛する自分が許せないっていうなら、あたしが先生を束縛するからっ!

結婚して、先生がどんなに嫌がったって独り占めするから……っ!」


ポロポロと流れ落ちる涙なんか気にしないで、市川は俺を見つめる。

市川の途切れることのない涙と言葉が、心臓を掴んだように苦しくさせていた。