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「矢野先生」


放課後、帰宅準備をして職員室を出たところで、後ろから声をかけられた。

声で誰かが分かって、振り向くの事も躊躇しながら、ゆっくりと視線を交わした。


「なんですか? ……馬場先生」


今日、市川と話したばかりなのに……。

だけど、同じ職場にいる以上、変な態度は取れない。


少なくとも、理性が働いている今の俺には不可能だった。


一応微笑んで答えると、いつもと違う様子の馬場先生に気付く。


いつもならすぐに赤く染める顔が、今日はやけに強張っていて、話の深刻さを物語ってるようだった。


視線の先で、馬場先生は目を伏せる。

そして言いづらそうに口を開いた。


「ちょっとお話があります。

……音楽学習室、来てもらえますか?」

「……それは、仕事上の話ですか?」


先日の事があるため、一応釘を刺す。

その問いに、馬場先生は少し黙った後、頷いた。