なんとなく周りを気にして敬語にしてみるも、なんだかその方が余計に不自然に聞こえた。
よく考えてみれば、先生はみんなから敬語使われてないし。
話し方はいつも通りでもいいのかな。
うん。と一つ頷いていると、それを不思議に思ったのか、先生が振り返る。
そして、あたしの顔をじっと見つめた。
数学学習室からそれほど離れていない、北校舎の階段脇。
窓がなくて薄暗いそこは、人通りは極めて少ないけど……こういうのはちょっとまずいと思う。
「な、なに?」
「……なんかおかしいな、おまえ」
「おかしくなんかっ……」
「あ、市川先輩」
全力で「おかしくない」って否定をしようとした時、階段に大きな声が響いた。
呼ばれた名前にびっくりして振り返ると……、そこには。
「……」
会いたくない人の姿。
先生と一緒の時なんて、絶対会いたくない人。
ちらっと先生を見上げると、先生は不思議そうにその人物に視線を送っていた。



