ゲイな彼と札束


できるだけ影になっているところを選びながら街を歩く。

アスファルトの照り返しがキツい。

行くアテはないし、帰る場所もない。

さて、これからどうしたもんか。

信号待ちのために立ち止まると、ふと左に違和感を覚えた。

「お前……!」

「すみません、つい」

捨て犬野郎。

ついてくんなよ。

「何? ナンパ?」

「いや、そうじゃなくて」

「だったら何だよ?」

ナヨナヨしててイライラする。

お前だって不幸な顔してるくせに、可哀想な目であたしを見るんじゃねーよ。

私の方が不幸だと言われてるみたいで胸くそ悪い。

「俺、絆創膏持ってて、それで……」

スッと差し出された絆創膏。

携帯電話会社のロゴ入りだ。

どこかで配布していたのだろう。

だからって、わざわざ追いかけてまで持ってくるか、普通?

信号は青になり、人々が動き出す。

あたしは絆創膏をパッと奪うように受け取り、礼も言わずに人の流れに身を任せた。

男はもう、ついては来なかった。