ゲイな彼と札束


中野から近くて何でもあるという理由で新宿に来てみたが、ここは相変わらず人が多い。

顔のアザは消えたし、膝を流れていた血液はかさぶたになって治癒の進行中。

あの日のようにジロジロ見られないから、あたしの気持ちは落ち着いている。

東口を出て人の波に乗り、Aビルへ。

化粧品、服、下着。

あたしに必要な物は、おおかたここで揃うだろう。

金は十分すぎるほど持ってきた。

買い放題だ。

欲しいものがあったら何でも買ってやる!

そう意気込んで、ビルの中の気になった店を片っ端から巡った。

一時間後。

あたしは買い物袋を一つも持たずにいったんビルを出た。

気に入ったものがなかったわけじゃない。

いくつか見つかった。

だけど、あたしは束になった諭吉を分解することができなかった。

いざ使おうと思うと、怖いのだ。

300万円。

少しでも使えば、まるまる価値を失ってしまうような気がする。

昔は他人の金だろうが何だろうが、何も考えずに使えたのに。

あのマモルが泣いて得た金だと思ったら、バッグのファスナーを開くことさえできない。