ゲイな彼と札束


それは困った質問だ。

「携帯持ってない」

「えっ、マジで? 今時珍しいね」

「あたしだって欲しいけど、身分証がないから契約できないんだよ」

所詮あたしは家出少女。

免許もなければ保険証もない。

東京へ来てから3年間、やむを得ず医者にかかったときは、高額な医療費を支払う羽目になった。

しかし支払った甲斐あって、今はクリーンなカラダである。

「じゃあ、ちょっと待ってて」

マモルは一旦部屋に戻り、30秒くらいですぐに戻ってきた。

「これ、俺の番号。何かあったら電話してね」

ノートを破った紙に11桁の番号が記されている。

「わかった」

あたしはそれをタバコの箱のフィルムに挿して、今度こそ部屋を出た。

次の瞬間、全身を襲った暑さに顔をしかめる。

むせるような湿気で、都会の空気は吸うのをためらってしまうほど濁った味がする。

もう何度も夏を経験しているのに、外に出ると必ず予想を越えて暑い。

蝉がうるさい。

全体的に不快。

心の声が顔に出る。

とりあえず、マモルと出会った新宿にでも行ってみるか。

あたしは日差しによるダメージを受けながら駅へ向かい、中央線に駆け込んだ。

電車の中は天国だ。