ゲイな彼と札束


マモルの部屋に来てからというもの、心と体が軽くなった。

マモルは優しいし、殴ったりもしないし、怪しい仕事を頼んだりもしてこない。

過激な性的サービスも要求されない。

そもそもサービスの要求さえ皆無だ。

あんまり自炊はしないけど1日に3食いただき、朝起きて夜眠る、健康で文化的な生活を送っている。

生まれてこのかた18年、こんなに安らかな気持ちで暮らしたことはない。

いつだって痛みに怯えていたし、死すら覚悟したこともある。

こんなふうに思うのはおかしいかもしれないけど、毎日が穏やかすぎて怖い。

あたしみたいな腐った女が、こんな好青年の彼女でいいのだろうか。

「というわけで、これ持って必要なものを買っておいで」

マモルはまたポンと300万を手渡してきた。

札束にも見慣れてしまい、もう諭吉たちにはビビらない。

「わかった」

あたしは札束をCOACHのバッグに詰め、寝室で拝借していたマモルの服を脱ぎ、彼と出会った日に着ていた自分の衣類を身に着ける。

少しキツく感じるのは太ったからか、それともしばらく少し大きいマモルの服ばかり着ていたからか。

久しぶりの外出である。

「じゃ、行ってくる」

サンダルを履いた私を、マモルが「ちょっと待って」と呼び止めた。

「ねぇ。携帯の番号、教えといて」