通帳を見ると、確かに残高は300万を越えていた。
札束は通帳の記載へと形を変えてしまったから、もうリビングで諭吉の不気味な顔を見ることもない。
「安心すんなよ。すぐなくなるぞ」
「なくならないよ。幸せ貯金なんだから、使わないもん」
「何そのネーミング。だっせー」
「うるさいな」
通帳を突き返し、マモルの腕に自分の腕を絡ませる。
温かい。
好きな人の温もりがこんなにも心地よいものだなんて知らなかった。
ビルとビルの間を吹く風が身に沁みる。
ギュッと腕の締まりが強くなり、密着度が高まった。
いつかまた、マモルが男に恋をする日が来るかもしれない。
それを不安に思う気持ちはあるけれど、一時的な感情ではなく、一生ものの愛を信じて育むと決めた。
マモルがあたしにしてくれるように、あたしもマモルを幸せにすることに力を注ぐと決めたのだ。
だからもう逃げないし、迷わない。
「ねぇ、サエ」
「んー?」
「帰ったら一緒にお風呂入ろうか」
「はぁっ? やだよ」
周りに人がたくさんいるのに、普通の音量で何を言ってるんだこいつは。
あたしはまた照れてしまったが、周囲の人々は誰もあたしたちの会話なんて聞いていないことに気づく。
街を歩けば敵ばかりだと思っていたけれど、本当はどこにも敵なんていなかったのかもしれない。
そのことに、あたしは今初めて気が付いた。
「約束したじゃん。ギブス外れたら一緒に入るって」
「約束はしてねーだろ、約束は」
「したよー。覚えてないの?」



