「一本もらっていい?」
マモルがそう言ったから、あたしは返事の代わりにポイと箱とライターをマモルの太股に乗せた。
さっきこいつが300万をポイとあたしに乗せたのと、ちょうど同じような軽い動作で。
安物のライターをカチッと鳴らしたマモルは、一口吸ってむせた。
「辛っ! こんなの吸ってるんだ」
「なんだ、あんた吸わないのか」
灰皿があるから、てっきり喫煙者だと思っていたのに。
どうやらこの灰皿は、恋人のために準備されたものらしい。
マモルは別れた恋人の味を噛みしめるように吸い続ける。
たどたどしい灰の落とし方が、喫煙者ではない証拠のよう。
「ねぇ、サエってどういう字書くの?」
唐突な質問に、あたしは無愛想に答える。
「冴えてるの冴」



