久しぶりに来た亮の部屋の香りに
なんだか懐かしさまで覚えて…
そんな自分に少し戸惑った。
自分の中にかけがえのない大切な人が増えていくのは…
幸せなのに、時々恐くなる。
失った時の悲しさも寂しさも超越したあの感情を知っているから…
普段使ったところを見たことのない黒いテーブルには
大学入試のための問題集が未だに山積みになっていた。
キレイに角の付いている問題集は
まるで新品同様で…
不思議に思った奈緒が口を開く。
「ねぇ、ちゃんと勉強したんだよね?」
コートを脱ぎ捨てた亮が奈緒の問いに顔をしかめる。
「…勉強っつぅか…
まぁ、1通り読んだ」
亮の答えに
奈緒が苦笑いして…
もう一度問題集に目を移した。
20冊ほどはあると思える厚手の問題集。
読むだけでも…
きっとたくさんの時間がいるはずで…
胸が苦しくなって…
「亮…
ごめんね…」
奈緒が謝罪の言葉を口にした。
「…なにが?」
訳の分からない様子で亮が奈緒に尋ねる。
亮の視線の先で
奈緒が唇をかみ締めていた。
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