改札を抜けると丁度電車が出るところでアナウンスが流れていた。
満員に近い電車に2人で乗り込むと
発車ベルが鳴りドアが閉まった。
6時代の電車は学生やサラリーマンで溢れていた。
「結構混んでるね…
梓ちゃんこっちきてなよ」
ドアの真ん前にいた梓の手を
武史が軽く引っ張りドア横の手すりに掴まらせる。
ドアと武史に挟まれる格好になり
梓は目のやり場に困った。
向かい合っている武史の首もとが目の前にあって
なんだか凝視できなくて…
梓はずっと隣に座っている人が開いている新聞を見ていた。
どうでもいい野球の試合結果や
昨日起きた大規模な停電の記事をただ眺めていた。
たまに電車が揺れる度に触れる肩が
恥ずかしくて…
少しうれしかった。
勇気を出して1回だけ見上げると
気づいた武史が笑いかけてきて…
梓はそれっきり顔が上げられなくなってしまった。
たった一駅の電車は5分足らずで
…少しだけ残念に感じた。
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