卒業式当日、朝一番に智也から電話があった。
「午後に行くから」
その言葉だけで美沙の顔が明るくなった。
柄にもなく、
卒業式で名前を呼ばれたときも大きな声で返事をした。
もう通わなくていい学校。
会わなくていいクラスメイト。
いじめを見てみないふりする先生という肩書きの大人。
愛情のない両親。
やっと全てから開放される。
…そのことから開放されるなら
川口の事件のことくらい自分で乗り越える。
一瞬、曇った心も迎えに来た智也の顔を見た途端に晴れていく。
「よし、行くか」
智也が美沙とたくさんの荷物を積んで車を走らせる。
「あ、おい、寒いから窓あけんなよ」
助手席で窓を全開に開けた美沙に智也が言う。
「きっもちいい~!!」
わざと聞こえないふりをする美沙を見て智也が微笑む。
「うち来てもすぐには働かなくていいよ。
最初は土地に馴染んで…
美沙が慣れて働きたくなったら働けば」
智也が気を使っているのが分かった。
「智也は周りに何も言われなかったの?」
美沙の言葉に智也が笑う。
「もう大人だからさ(笑)
周りもそんな事言うやつらいないよ」
窓から入ってくる風が
智也の髪を揺らす。
日に透ける髪が少し茶色がかって…
見つめていた目を智也にばれる前にそらした。
『大人だから』
違うよ。
そんな理由じゃない。
『智也』だから…だよ。
あたしだから…色々言われたの。
友達といい加減にしか接してこなかった罰…
でもあたし変わるから。
ちゃんと周りにも本当の自分を見せるから。
智也に見せたみたいに…。
自分ともちゃんと向き合う。
もう逃げないから。
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