「おかえり」
いつもは迎えられない言葉をかけられて
美沙の顔が笑顔になる。
母親は『いってらっしゃい』も『おかえり』も言わない。
言うのは父親の愚痴と悪口ばかり。
さすがにうんざりして美沙も話しかけることをあきらめた。
毎朝テーブルに置かれている千円札を持って学校へ行った。
「智也、どうしたの?」
突然の訪問にビックリした様子の美沙が聞くと
智也が美沙の母親をチラッと見てから話し出した。
「今、おばさんには話したんだけどさ
美沙進路決めてないだろ?
ここじゃ色々悪く言うやつもいるし…
よかったらオレんとこ来ないかなって」
智也は3年間サラリーマンをした後、
インターネット喫茶に転職していた。
友達の誘いを受けた形だったが
最初は従業員だった智也は
どんどん位をあげて1年前には店長に就任していた。
「…インターネット喫茶で働くって事?」
美沙の言葉に智也がうなづく。
「どうせやることないんならいいんじゃないかなって思ってさ。
住むとこはオレのアパートの部屋一部屋貸すし」
「行く!!」
智也が言い終わるか終わらないかで美沙が大きな声で返事をした。
「や、別にそんな急いで決めなくてもいい話なんだけど…(笑)」
戸惑った様子の智也に美沙が首を振る。
「ううん、行きたい。
いいでしょ?お母さん」
美沙が母親に尋ねる。
2人が交わす今日初めての会話だった。
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