イジワルな恋人〜番外編〜



どこかで見たような…


スーツを着たとても優しそうな紳士を前に
梓は考え込んだ。


「私、北村といいます。

亮様の運転手をしております」


「あ!」


にっこり笑う北村の顔を見て梓は指を指してすぐに引っ込めた。



「あたしは…笹田です。

水谷奈緒の友達なんですけど…」


北村が自分のことを知っているかどうか不安で
少し自信なさげに梓が言うと
北村が微笑んだ。


「存じておりますよ」


「そうですかぁ…」


梓は北村の笑顔と言葉にほっとして笑う。


「先ほど、亮様を呼び出されていたようでしたので…

何か御用ですか?


あいにく亮様は外出されておりますが…

言付けで宜しければ承りますが…」


北村の言葉に少し躊躇した後、
梓が口を開いた。


「あのっ…

出来ればでいいんですけど…


来週だけ奈緒の送り迎えをしてあげてくれませんか?」


真剣な顔をして頼み込む梓に
北村は少し困ったような顔をした。


「でも、奈緒様はあまりそうゆうことを好まなくて…

亮様にも奈緒様を送るように言われてるんですが
いつも断られてまして…」


「…そうですか」


考えてみればその通りだ。

奈緒は甘やかされることが好きじゃない。


「騒がせちゃってすみませんでした。

帰ります」


「あ、はい。

お気をつけてお帰り下さい」


北村の笑顔に優しき送り出されながら
梓は亮の家を後にした。



頼みの綱が…


もうない。




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