イジワルな恋人〜番外編〜



ただインターホンを押すだけなのに緊張するほどの家。


一度だけ、奈緒と一緒に入ったことがある。


『お金持ち』

その響きだけで使用人がたくさんいて
賑やかなイメージを持っていた梓だったが

実際は全く違った。


広い家の中はただ広く閑散としていた。


数人の使用人はいるものの
みんな静かに微笑むだけで上品なイメージだった。


あの上品な家の中にベルが鳴り響くと思うと差し出した人差し指を一度引っ込める。


少し躊躇した後、梓は桜木家のインターホンを押した。



『どちら様でしょうか』


すぐに女性の声が聞こえた。


とても綺麗な声に梓の緊張が増す。


「あの、笹田といいます。

亮さんとお会いできないでしょうかっ」


少し震えた声でインターホンのカメラを見つめながら言った。


『お約束はされてますか?』


「あ…いえ。

でも、知り合いで…」


『申し訳ありませんが
お約束されていない方をお通しする訳にはいきませんので…

お引取り願います』


…知り合いなのに?


インターホンのスピーカーがプツっと切れる音が聞こえた。



そういえば…

前奈緒から聞いたことがある。


桜木先輩が遊んでた頃の相手の女が今でも付きまとってるって…


だからか…


少し頭にくるほどの冷たい対応に梓は納得する。


でも…

桜木先輩以外に頼れる人なんて…


奈緒を助けてくれる人なんて…



梓の頭に誠の顔が浮かんだ。


…だめ。


せっかく奈緒達うまくいってんのに
ここで中澤先輩にでてこられたらややこしくなる…


誰か…

誰か…


梓が難しい顔をして頭を悩ませていた時、
後ろから声を掛けられた。


「あの…」


梓が振り向くと、そこには50代くらいの男性が立っていた。



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